山形県と宮城県の県境の山道に出現したと言われる怪異・・・
ヤマノケ
お寺生まれのTさんが、入院している友人の見舞いに来ていた。
「思ったより大丈夫そうだな」
「……T」

男性の表情は曇ったままだ。
「彼女は一緒だったのか?」
「なぁ、化け物とか詳しかったよな」
男性のただならぬ様子に、Tさんも「どうした?
」と声をかけた。
男性はゆっくりと口を開く。
——
男性は、彼女とデートの帰りに山道をドライブしていた。
山道といっても、普段からよく使う道だった。
「ほとんど車も通らないし、少し入ったところに良いスペースがあるから」
本線から少し外れたところに広場があり、休憩をするのにちょうど良いという。
そこに車を止めた。

「ねぇ、暗いよ。
こんなところ嫌だな」
「大丈夫だって、ここなら車も人も来ないし」
そう言って、男性は女性に近づこうとした。
「ねぇ、何か聞こえない?」
「動物の鳴き声とかだろ」
「いや、何か違う。
何か喋ってるよ……」
彼女は怯えるように口にする。

「テン……ソウ……メツ?」
男性は笑う。
「なんだよそれ、空耳じゃ……」
突然、彼女が叫び声を上げた。
男性も彼女の視線の先に目をやり、同様に叫び声を上げた。

なんと、森の奥から不気味な何かがこちらを見ていたのだ。
「なんだよ、ありゃ……」
人間のような形をしていたが、違う。
体は白く、頭はなく、足は片足しかないように見える。
彼女は恐怖で声が出せなかった。
「顔が……胸にあるぞ」
その異形の者は、体を大きく揺らしながら迫ってきた。
男性は急いで車を旋回させ、走らせた。
「逃げ切ったか……」
一度車を停めて確認する。
化け物の姿はない。
「助かった……」
男性がホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、隣の席からうめき声が聞こえてくる。
「おい、どうした?」
「あぁあぁぁ……ハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタ……」

「おい……どうしたんだよ。
冗談だろ……?」
「テン……ソウ……メツ……テン……ソウ……メツ……」
うわごとのように繰り返す彼女を、呆然と眺める。
すると――ドン、と強い衝撃があった。

なんと、あの化け物が車の前に立ち、こちらを見つめていたのだ。
「それで気を失って……気づいたら病室で」
「いいか、それはヤマノケだ。一緒に乗っていた彼女は?」
「それが……俺しかいなかったんだ。
行方が分からないんだ……」
それを聞いたTさんの顔が強ばる。
「どうしたんだよ……?」

「いいか、よく聞け。ヤマノケに取り憑かれたら、49日の間に祓わないと、もう戻ってこれなくなるんだ。早く見つかるといいが……」
有名なネットロアの一つで、2007年に洒落コワスレッドに書き込まれた話しです。その時点ではただの怖い話というか、妖怪系の話しと言う感じですが、こちらもその完成度の高さから様々なところで語られて変化していっている事を考えると、都市伝説として良いのかなと。
ヤマノケに関しては、諸説ありますが、「山の化」「山の怪」とかいて山の怪異ということという説があります。正確なところはわからないそうです。
ただ、女性に取り憑くということ、四十九日の間に祓わないと正気に戻らないというのは共通の様ですね。
山の中に安易に入るなという警告を兼ねた都市伝説なのかとも思いますが、女性にだけつくというのが気になる点でもありますね。
ネットロアは、警告的な意味合いよりも、いかに怖い話しにするかを基点としている節もあるのでなんとも言えないところではありますが、不気味さはトップクラスですね。
おすすめの書籍
都市伝説を含め、日本の怪異を辞典にした本です。辞典ですが、何となく読み進めるだけでも面白い。
量が多いですが、亜種も一つとしてカウントしているので同様の怪異または都市伝説も多く、一つ一つの内容が少ないこともありますが、圧倒的な熱量で集めた怪異の数々はホラー好きならば持っておいて損はない一冊だと思います。
